Meet Glycan

糖鎖とは?

かたちで語る、細胞のことば。

生命の鍵を握る、
もうひとつの分子言語

生命活動は、分子どうしのやりとりによって成り立っています。DNAが設計図、タンパク質が働き手だとすれば、糖鎖は「いつ、どこで、どのように働くか」を伝えるメッセージです。
その複雑で多様な構造が、細胞同士の精緻なコミュニケーションを支えています。

糖鎖の基本

糖鎖とは、「単糖」と呼ばれる小さな糖が、鎖のようにつながってできた分子です。グルコース(ブドウ糖)をはじめ、マンノース、フコース、シアル酸、N-アセチルグルコサミンなど、さまざまな種類の単糖が存在し、それらがどのような順番で、いくつ、どう結びつくかによって、糖鎖は非常に多くのバリエーションを持ちます。そして、その“かたち”の違い一つひとつが、生体内で意味を持ち、細胞のやりとりや認識に関わっています。
糖鎖は、生体内ではたとえば次のようなかたちで存在します。

  • N-結合型糖鎖: タンパク質のアスパラギンに結合する糖鎖
  • O-結合型糖鎖: タンパク質のセリンやスレオニンに結合する糖鎖
  • 糖脂質: 脂質分子に糖鎖が結合したもの

N-結合型糖鎖の例

グルコース(Glc)の構造式とシンボル表示。
ガラクトース(Gal)の構造式とシンボル表示。
マンノース(Man)の構造式とシンボル表示。
フコース(Fuc)の構造式とシンボル表示。
N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の構造式とシンボル表示。
シアル酸(Neu5Ac)の構造式とシンボル表示。

身の回りにある糖鎖

生体内では、糖鎖はタンパク質や脂質に結合し、細胞の表面や内部に広く存在しています。そのはたらきは多岐にわたりますが、身近な例のひとつが「ABO式血液型」です。血液型は、赤血球の表面にある糖鎖の“構造の違い”によって分類されています。

  • O型: フコース、ガラクトース、N-アセチルグルコサミンの3つの単糖からなる構造。
  • A型: O型の糖鎖に1つN-アセチルガラクトサミンが結合している構造。
  • B型: O型の糖鎖に1つラクトースが結合している構造。
  • AB型: A型とB型両方の糖鎖を持つ

A型の人はB型糖鎖を“異物”とみなして抗体(抗B抗体)を持っており、そのためA型の人にB型やAB型の血液を輸血すると、抗体が反応して赤血球を破壊してしまいます。このような理由から、輸血では基本的に同じ血液型の血液が使われています。

O型、A型、B型、AB型の血液型ごとの糖鎖構造の違いを示すイラスト。赤血球の表面にある糖鎖の末端構造が異なることで血液型が分類される。

糖鎖と病気

細胞の表面に存在する糖鎖は、細胞どうしの接着や分化など、さまざまな生命現象に関わっています。その一方で、糖鎖が病気の発症や進行に関与することもあります。
たとえば、インフルエンザウイルスは、人の細胞表面にある特定の糖鎖構造を“目印”として認識し、感染を引き起こします。また、花粉症などのアレルギー症状にも、アレルゲン分子に結合している糖鎖が関与している可能性が指摘されています。こうした糖鎖の役割への理解が進むことは、病気の予防や治療法の開発に大きく貢献すると期待されています。

インフルエンザAウイルスが感染細胞に侵入する過程を示した図。ウイルスが細胞膜表面の糖鎖と結合し、エンドサイトーシスを経て細胞内に取り込まれ、融合・脱殻によって遺伝情報を放出する。

糖鎖活用の未来をひらく

糖鎖は、多くの生命現象に関わる重要な分子であり、その構造や機能の理解は、創薬や生命科学の発展に欠かせません。しかし、その構造が非常に複雑であることから、長年にわたり安定的な供給が困難であり、研究や産業での活用には大きな技術的な壁が立ちはだかっていました。

KHネオケムは、本分野のパイオニアである糖鎖工学研究所との連携を通じてこの“供給の壁”に挑み、糖鎖の製造から修飾までを一貫して担う独自の技術を開発しています。多様な糖鎖を大量かつ安定的に供給できる体制を整え、私たちはこの技術を通じて、糖鎖の活用を加速させる新たなステージを切り拓いていきます。